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ひとすじの光
「お節介ついでに」と話題を少し変えてみる。
「海行こうよ。深海はわからないけど、浅い海は黒くないし、密室に閉じこめたりしない。それを知って欲しいな」
「詳しいね。海の近くに住んで……あ、千波って」
「うん。前の家はお父さんの実家の近くでね、歩いて海に行けた。ていうかうちのお父さんとお母さん、海が荒れてる日に出会ったんだって。だから千波」
「そうなんだー。なんで別れちゃったんだろう」
途端に、未宇の血色が薄い顔から、さらに色が抜けて青くなっていく。
「ごめん。余計なこと言った」
未宇が頭を下げると、ウィッグのつむじが目の前にくる。
そこから綺麗に流れる黒い毛の流れと、揺れてはぐれた一本に当たる光が一瞬だけ、虹色に輝くのをながめた。
あわてる未宇とは対照的に、私は少し、視界がひらけた気分になる。
「本当だ。……私、お母さんたちが離婚した理由、ちゃんと聞いてない」
迎えるはずの未来とは全く別方向に進む毎日についていくのに必死だったし、生乾きのかさぶたみたいに、触れてはいけないと思って話題にしなかった。
意地になっていたのもある。
あれだけ努力していた受験を諦めさせてでも離婚に踏みきるのがショックだったから。
私と私の努力が軽んじられた気がして、理由なんか聞きたくもなかった。
でも、それ以上に重たいものがお父さんとお母さんの間を引き裂いたのだとしたら。
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