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「病院ってさ、9時に消灯しちゃうの。そしたらびっくりするくらい暗いんだよ。看護師さんがいる部屋は明るいけど、その近くは小さい子の部屋だから。私みたいに一番奥の部屋にいるとさ、真っ暗なの。大部屋ならまだ他の子の気配があるけど、個室は空調と点滴と……とにかく機械の音と自分の息しか聞こえない。なのに目だけは冴えてるから、いろんなこと考えちゃうんだよね」
「いろんなこと?」
「深海に行く潜水艦ってこんな雰囲気かな、とか。逃げようと思っても逃げられない状況が似てるじゃん、って」
「深海?」
「小さいころ海で溺れかけたことあってさ。そのくせに海が気になって、深海魚の図鑑とかよく見てたんだよね」
「へえ?」
「考える時間だけはたくさんあったってこと。とくに体がしんどいとさ、このまま闇にとけていくのかなとか本気で考えたりするわけ」
「うん……」
笑顔で軽口のように話すけれど、私の想像なんてちっとも追いつかないくらい辛かったんだ。
自分の部屋で眠るとき、闇にとけるなんて考えたことがない。
明日のことを考えて多少の浮き沈みはあるけれど、基本的に夜は眠れる。
そんな私が、生死のはざまにいる過酷さを思い浮かべるのは難しい。
「だけど――」
未宇の笑みが深くなった。
「もう限界。寝れなくなるけどベッドの小さい電気つけよう――あ、読書灯って豆電球みたいなのはつけてもいいんだよ。で、スイッチ押そうとしたら千波からメッセージが届くの。画面が光って、それこそまだ生きてるって現実に戻してくれた。ただネットを見るだけじゃ気が晴れないのにね。私に向かってくるメッセージが、なんか」
続きを待っていると、未宇がまた笑いだした。
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