2人が本棚に入れています
本棚に追加
時計の長針が9を指したころです。床のタイルで何かが動きました。急いで立ち上がります。
床の上を黒い影がすべっていきます。教室のすみからすみへと移動した影は、今度は壁へとうつりました。
小さな猫の形をしています。影になっても、まだおどおど震えています。間違いない。キイちゃんです。
「待って、キイちゃん!」
呼びかけに答えるかのように、影は動きを止めました。
だいじょうぶ。わたしは自分に言い聞かせます。相手はキイちゃんです。わたしの言うことなら聞くはず。もし聞かなかったとしても、15分がたってしまえば時間切れです。
「キイちゃんは、このままでいた方がいいと思う。みんなのところに戻ったって……つらいだけだよ」
キイちゃんは、この前の大縄跳び大会で大失敗をしました。校内新記録の直前で、足を引っかけたのです。
クラス全員での猛練習も、わたしの付きっきりの個人指導もムダになりました。みんなは怒りました。キイちゃんはクラスの中で無視されるようになりました。「キイちゃんを教えていた」という理由で、わたしまで無視されました。
「きっと……そっちの方が、居心地がいいんじゃない? そこでなら、誰もキイちゃんのことを責めないよ」
キイちゃん、お願い。わたしは、これまでさんざんあなたの役に立ってきた。1回くらい……わたしの役に立って!
最初のコメントを投稿しよう!