黒猫が廻る

10/13
前へ
/13ページ
次へ
 時計の長針が9を指したころです。床のタイルで何かが動きました。急いで立ち上がります。  床の上を黒い影がすべっていきます。教室のすみからすみへと移動した影は、今度は壁へとうつりました。  小さな猫の形をしています。影になっても、まだおどおど震えています。間違いない。キイちゃんです。 「待って、キイちゃん!」  呼びかけに答えるかのように、影は動きを止めました。  だいじょうぶ。わたしは自分に言い聞かせます。相手はキイちゃんです。わたしの言うことなら聞くはず。もし聞かなかったとしても、15分がたってしまえば時間切れです。 「キイちゃんは、このままでいた方がいいと思う。みんなのところに戻ったって……つらいだけだよ」  キイちゃんは、この前の大縄跳び大会で大失敗をしました。校内新記録の直前で、足を引っかけたのです。  クラス全員での猛練習も、わたしの付きっきりの個人指導もムダになりました。みんなは怒りました。キイちゃんはクラスの中で無視されるようになりました。「キイちゃんを教えていた」という理由で、わたしまで無視されました。 「きっと……そっちの方が、居心地がいいんじゃない? そこでなら、誰もキイちゃんのことを責めないよ」  キイちゃん、お願い。わたしは、これまでさんざんあなたの役に立ってきた。1回くらい……わたしの役に立って!
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加