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目を開けると、あの暗い部屋でした。キイちゃん以外の、5年2組全員が輪になっています。
変に陽気な声でおしゃべりをしています。おずおずと話しかけると、仲間に入れてもらえました。ついこの間まで、無視されていたはずなのに。
あの時のキイちゃんと同じであることは、考えないようにしました。後ろを振り返って、ハンカチがあるかを確かめることはしません。手で後ろを探ることもしません。
いらないのは、おまえだ
みんなからそう突きつけられている。そんなこと、誰も確かめたくはありません。みんなにようやく受け入れられた、最後の瞬間までそう思っていた方がマシです。
それでも、その時はやってきました。わたしの肩に手がおかれます。振りむくしか、ありません。
キイちゃんがいました。いや、違います。キイちゃんはこんな表情をしません。ニンマリとしたその笑みは、黒猫のものです。
表情はそのままに、目の前の相手の顔が変わっていました。わたしの顔です。
「残念でしたね。今度はあなたの番です」
黒猫が抑揚のない低い声で言います。ごろごろと喉を鳴らします。そのまま、わたしのいる壁から手をはなします。
のんびりした足取りで、黒板の方へと歩いて行きます。
「こんな時間まで、何やってるんだ! 早く帰りなさい」
廊下の方から用務員さんの声がしました。
「はーい。ごめんなさーい」
わたしの声がそれに答えました。
わたしの姿をした黒猫は標語の書かれた額縁を一瞬だけ見上げ、そのまま教室の外に出て行きました。
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