黒猫が廻る

2/13
前へ
/13ページ
次へ
 わたしたち5年2組は、今その「ハンカチ落とし」をしています。暗い部屋の中で、床に座って。  わたしたちたちの周りを回っている「鬼」は、人間ではありません。  ぼんやりとした影のようなそれには、2つのとんがった耳があります。ゆらゆらと揺れるしっぽがあります。四つ足で滑るように移動します。とても大きな、黒猫のようでもあります。  黒猫が通った時に背中や首筋にかかるかすかな息を、わたしたちは無視します。まるで何事も起こっていないかのように、笑い声を上げておしゃべりをします。  よけいなことをしないで、その場をやり過ごす。そうすればこのゲームはもうすぐ終わってくれるはずです。  ハンカチはすでに、1人のクラスメイトの後ろに置かれているからです。そのクラスメイト……キイちゃんが一周してきた黒猫にタッチされればゲームは終わりです。わたしたちは見慣れた小学校の教室に帰ることができます。  だから、わたしたちは変に陽気な声でおしゃべりをします。  キイちゃんが狙われていること、残りの全体に切り捨てられていることを気がつかないように。気がついたとしても、黒猫を追いかけようなんて気を起こさないように。  黒猫はゆっくりと、でも確実にキイちゃんの方へと近づいて行きます。  彼女はそれに気づく様子もありません。いや、気づいていて目をそらしているのでしょうか。  身を乗り出して、おしゃべりに混ざろうと必死です。みんなも、こころよくそれに答えます。こんな時でもなければ、彼女が輪の中に迎えられることなんてなかったはずなのに。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加