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わたしたち5年2組は、今その「ハンカチ落とし」をしています。暗い部屋の中で、床に座って。
わたしたちたちの周りを回っている「鬼」は、人間ではありません。
ぼんやりとした影のようなそれには、2つのとんがった耳があります。ゆらゆらと揺れるしっぽがあります。四つ足で滑るように移動します。とても大きな、黒猫のようでもあります。
黒猫が通った時に背中や首筋にかかるかすかな息を、わたしたちは無視します。まるで何事も起こっていないかのように、笑い声を上げておしゃべりをします。
よけいなことをしないで、その場をやり過ごす。そうすればこのゲームはもうすぐ終わってくれるはずです。
ハンカチはすでに、1人のクラスメイトの後ろに置かれているからです。そのクラスメイト……キイちゃんが一周してきた黒猫にタッチされればゲームは終わりです。わたしたちは見慣れた小学校の教室に帰ることができます。
だから、わたしたちは変に陽気な声でおしゃべりをします。
キイちゃんが狙われていること、残りの全体に切り捨てられていることを気がつかないように。気がついたとしても、黒猫を追いかけようなんて気を起こさないように。
黒猫はゆっくりと、でも確実にキイちゃんの方へと近づいて行きます。
彼女はそれに気づく様子もありません。いや、気づいていて目をそらしているのでしょうか。
身を乗り出して、おしゃべりに混ざろうと必死です。みんなも、こころよくそれに答えます。こんな時でもなければ、彼女が輪の中に迎えられることなんてなかったはずなのに。
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