黒猫が廻る

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 キイちゃんの後ろで黒猫が動きを止めました。もともと猫にしては異常だったそのサイズは、みるみるうちに大きくなっていきます。真っ黒な顔が、遥か上から彼女を見下ろします。  それでも、キイちゃんは立ち上がろうとはしません。振り向くこともしません。何も気づかず、笑顔を浮かべています。  いや、気づいているのかもしれません。彼女の浮かべる笑顔は、何だかぎこちない。自分が黒猫に目をつけられたことに、気づいているのでしょうか。  キイちゃんの視線はわたしの方に向きます。ゆがんだ笑顔を貼り付けながら、無音で口をぱくぱくさせます。  た、す、け、て……そう言っているのがわかりました。  キイちゃんだけが、わたしのことを「友だち」と呼びました。彼女が困っていた時は、いつもわたしが助けてきました。  宿題を忘れた時は、いつも提出直前にノートを見せてあげました。大縄跳び大会の前には、付きっきりで個人指導もしました。彼女の忘れ物に備えて、何かを2つ持ってきた回数は数えられません。  でも、今回ばかりはどうしようもありません。わたしにはどうすることもできません。だって、彼女はクラス全員にこう言われているのですから。  いらないのは、おまえだ……と  見開かれた彼女の目に涙がたまっています。わたしはそこから目をそらします。  膨れ上がった黒猫の影は、あっという間にキイちゃんのことを呑み込んでしまいました。
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