黒猫が廻る

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 びくりと全身がふるえ、目が覚めました。真っ白いもやの中から、だんだんいつもの教室が戻ってきました。休み時間のざわざわも聞こえます。  背中や腕の変なところが痛いです。どうやら、机に突っ伏して寝てしまったようです。  何だかひどく気分が悪い。中身は思い出せませんが、悪い夢を見ていたようです。シャツも寝汗でじっとり湿っています。 「どうしたの、実加ちゃん? もう昼休み終わっちゃうよ」  近くにいたキイちゃんが、不思議そうに声をかけてきます。わたしはあいまいな笑顔を浮かべて、それにこたえます。  何もこわいことはない。いつもと同じ教室だ。そう自分に言い聞かせて、心臓のドキドキをしずめます。 「次、音楽だもんね。そろそろ移動しようよ」  キイちゃんは、手さげバッグの中に荷物を入れています。教科書、リコーダー、副読本、楽譜のプリント……音楽の授業に必要なもの全部です。 「……やっぱり違う」  思わずそう言っていました。ここは「いつもと同じ教室」じゃない。違っているのは……キイちゃんです。  彼女はわたしに「提案」をしたことはありません。いつもするのは「お願い」と「質問」です。  おかしいことは他にもあります。彼女の持っている手さげバッグの中に、授業に必要なものが全部入っていることです。いつも何かしらを忘れていたはずなのに。  何よりおかしいのはその態度です。こんなふうにはっきりとした口調だったところは見たことがありません。  キイちゃんはもっとおどおどと、笑いだか震えだかわからない声で話していたはずなのです。  思わずその手を取っていました。 「あなたは……一体誰なの?」
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