黒猫が廻る

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 このハンカチ落としが何度も続くものだと聞いた時はぎょっとしました。  このクラスの中でキイちゃんの次に「いらない」と言われるのは、たぶんわたしだからです。  しかし、始めるのがキイちゃんだというなら、話は全く違ってきます。彼女さえ押さえてしまえば、ゲーム自体が始まらないのですから。  すっかり安心したわたしは、気になっていたことを黒猫にきいてみました。 「ねえ、あなたは何のためにこんなことをしてるの?」  黒猫はニンマリといった様子で笑いました。笑顔を見たのは初めてかもしれません。そのまま無言で教室の奥、黒板と時計の間を指差しました。  そこの壁には1つの額縁がかかっていて、中には今年のクラス標語が書かれています。 『みんなニコニコ、なかよし2組』  どうしようもなくダサく、うすっぺらい標語です。  何と答えていいかわからず、微妙な感じで笑い返しました。超常的な力を持つ黒猫も、ジョークのセンスはないようです。 「さて、もう訊きたいことはないですか?」  わたしがうなずくのを見て、黒猫はパンっと手を鳴らしました。止まっていた時間と音が戻ってきます。  きょとんとしたキイちゃんの顔が、わたしに問いかけました。 「どうしたの、実加ちゃん? 音楽の授業、はじまっちゃうよ」  なかなかモノマネが上手じゃないですか。わたしは彼女にほほえみ返しました。
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