黒猫が廻る

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 放課後。14時半を過ぎた教室の中で、わたしは身をひそめます。  キイちゃんを見つける前に、先生や用務員さんに見つかってしまっては話になりません。机の陰に隠れた状態で、教室内の影がおかしな動きをしていないか見張っています。  思い返せば、わたしの人生はずっとキイちゃんに足を引っ張られてきました。  家が近くて、親同士の仲が良く、5年連続でクラスが一緒。異常なほど強い縁でしばられていたせいでしょうか。同い年のはずの彼女の面倒を、いつも見ていたような気がします。  低学年の時は、キイちゃんも含めてみんなと一緒に遊んでいただけでした。特に負担だとも思いませんでした。けれど、学年が上がるごとに彼女は「みんな」の輪から外れるようになっていきました。  勉強についていけなくなって、運動もそれほどできなくて、何かをすぐ忘れてしまう。そんなキイちゃんは誰からも相手にされなくなっていったのです。  困ったような顔で笑っている彼女に声をかけるのは、いつしかわたしだけになりました。  本当はわたしだって放っておきたかった。でも、彼女のお母さんとうちのママは今も一緒に出かけるくらい仲が良いのです。雑に扱ったら、後で何を言われるかわかりません。  だから、わたしはがんばりました。彼女の忘れ物を先回りして用意し、勉強でわからないところがあれば何時間でも教えました。  彼女のために時間を使っている分、わたし自身もクラスのみんなから遠くなってしまいました。 「ありがとう、実加ちゃん。困った時は助け合いだねぇ」  キイちゃんはよくそう言います。冗談ではありません。彼女がわたしのために何をしてくれたのでしょうか? 自分のことだって満足にできないくせに。何かをしてあげていたのは、いつだってわたしの方だった。  わたしは、がんばらない人がきらいです。がんばれない人もきらいです。今気づきました。わたし、キイちゃんのことが……けっこう大きらいかもしれません。
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