3人が本棚に入れています
本棚に追加
授業が始まってからも、サツキの様子は変わらず、尻込みを繰り返しているうちに、放課後になってしまった。
足早に教室を出たサツキを慌てて追いかけ、そのいつもより小さな背中に声をかけた。
「サツキ!」
サツキはゆっくりと振り返る。表情はうつろで、続けようとしていた言葉が引っ込みかけたが、なんとかもう一度奮い立たせる。
「一緒に、帰ろ」
わたしから誘うことはほとんど無かったから、サツキは少し驚いたようだった。見開かれた瞳が揺れ、その後に遅れて口が「うん」と動いた。
傾いた日差しと、冷たい北風を受けて、わたしたちは通学路を歩いた。普段なら言葉数の少ないわたしの代わりにサツキが会話をリードしてくれるのだけど、この日ばかりはそうもいかない。わたしが誘ったんだから──自分にそう言い聞かせて、寒さと緊張で震える手を握りしめた。
「何か、あった、よね?」
隣を歩いていたサツキの肩が、一度大きく揺れた。口をぎゅっと結び、今にも泣き出しそうな表情をしている。
「向こうで、話、聞かせてくれる?」
わたしは交差点の向こうに見える、背の低い生垣に囲まれた公園を指さした。
「うん……」
最初のコメントを投稿しよう!