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ぼろぼろの黒いランドセルを背負った彼女が、担任に連れられて教室に入ってきたのは、小学5年生の夏休み明けのことだった。160センチ近くありそうな身長と、耳にかかる長さに切りそろえられた短い髪も相まって、最初は男の子と勘違いした。
「荻野サツキです。よろしくお願いします」
彼女はやや緊張した面持ちと声色で自己紹介したあと、先生に促されて、窓際後方、わたしの隣の席についた。
地方都市にあるわたしたちの小学校に、転校生は多くない。休み時間のたび、サツキの周りには人だかりができた。
──どこから引っ越して来たの?
──兄弟姉妹は?
──何かスポーツやってる?
矢継ぎ早に質問が飛び交い、それらひとつひとつにサツキは丁寧な受け答えをしていた。その対応にクラスメイトたちも好印象を持ったようで、雰囲気は次第に砕けたものとなっていったが、その日は結局、誰ひとりとして彼女のランドセルには触れなかった。
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