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プロローグ
空との境目も曖昧な、コバルトブルーの海が広がっていた。
炭酸水のような泡が寄せては引いていく。
波打ち際を歩きながら、父の薄い背中に問いかけた。
「ねぇ。この海、覚えてる?」
降り注ぐレモン色の陽光に、目を細める父が頷いた。
「当たり前だ」
たった一言。
笑みを含んだその声は、記憶のなかの、柔らかな波音に溶ける。
白い砂浜の向こうにはアヒルのマークのキッチンカーと、そこから繋がる二人分の足跡。
水面にひらめく春の光の粒は、私たちを見守ってくれているかのように思えた。
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