第2話 桜舞う、ご神木の下で。

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パン作りはマニュアル通りにはいかないの。 しっかり生地を見て、それに合わせて作業を進めていくの。私は人間と一緒だと思ってるよ――。   鯨さんのその教えの通り、パン作りはその日の気温や湿度によって、水分の配合量も、発行時間も微妙に変わっていく。 きちんと状態を見て作らなければ美味しいパンはできない。   難しいけれど、そういう一筋縄ではいかないところが面白い。 思うようにいかないからこそ、成功したときは喜びも大きい。 言葉を介さなくても、心で繋がっているような不思議な感覚。   パンの声を五感で聞く。   私はパン作りはそんな言葉が合うと思っている。   先に焼き始めていたベーコンエピのオーブンタイマーが鳴り響いた。 「よし」   焼きあがったパンを店頭に並べ、表に看板を立てた。 私に任せてください――。   そう豪語しても、やはり現実は簡単なものでは無い。 数量限定、売り切れたら店を閉める。 そうしていても、ひとりで調理と接客をするのは簡単な事ではない。 これを鯨さんはあの歳でやってのけるのだから凄い。    いやいや、凄いって言ってちゃ駄目なんだよ。 心の中でもう一人の私が喝を入れた。 私はこれから店を持って、更にキッチンカーで売り歩くのだ。 キッチンカーは父と一緒だが、店は私一人でやるつもりだ。 弱音を吐いている場合ではない。
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