第2話 桜舞う、ご神木の下で。

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「コロッケパンが欲しいんですけど……」   そう言って、空になったトレイをちらりと横目で見た。 「あぁっ、気が付かなくてすみません。焼き立てがあるので、すぐに並べますね」   急いで厨房に戻り、粗熱を取っていたコロッケパンと一緒に、ラスクの袋も持って行くことにした。 「おひとりで忙しいのに、申し訳ないです」   男性はコロッケパンをトレイに取り、迷わずウインナーロールとメロンパン、それと今置いたばかりのラスクを一袋手に取った。 「いつもありがとうございます」 商品を袋に移し、男性に差し出した。 土曜日なのにいつものスーツ姿。今日も仕事なのだろうか。 それにしても、今日はまた買っていくパンの数が多い。    いやいや、私には関係ない事でしょ。 「えっと……」   いつまでも袋から手を離さない私に、男性が困惑の表情を浮かべていた。 「はあっ。すみません。ぼーっとしちゃって」   何が「はあっ」だ。 気持ち悪い声を出してしまって、顔から火を噴きそうだ。穴があったら入りたい。   受け取った男性は、思いついたように袋に手を突っ込んだ。 「これ、良かったらお昼に食べてください」
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