第2話 桜舞う、ご神木の下で。

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  「お父さん、お話があります」 脱衣所から出てきたばかりの、ボディーソープの匂いを漂わせる父を呼び止めた。 風呂上りは何よりもビールな父は、さっさと台所に向かうと、冷蔵庫から缶ビールを片手に戻って来た。 「今後の計画を立てたから、聞いて貰おうと思って」   缶のプルタブを起こすと、ぷしゅっと爽快な音が弾ける。 返事もしないまま、父はビールを煽り、喉を鳴らした。 「ねぇ、お父さん」   父の手元から視線を外し、何気ないように言ってみる。 「ビール、やめたら?」   父の部屋で見つけた書類のことが脳裏を過る。 あまり病気には詳しくないが、病気の時にアルコールが好ましく無いことくらいはわかる。 「なんでだ」 「なんでだって……別に」   それ以上何も言えなかった。   網戸越しに聞こえる虫の音が八月の夜を彩っていた。 頑固な人だ。どうせこれ以上言ったところで聞くわけもない。   気を取り直して、本来の目的を果たすことにしよう。 くじらベーカリーで修業を始めて一年が過ぎ、バイト終わりにせっせと作っていた計画書らしきものをテーブルに広げた。 らしき、というのも、私はこういうのはよくわからない。 本来、どう書くものかもわからないので、思い付きでそれっぽく書いてみただけだ。
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