第2話 桜舞う、ご神木の下で。

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パン屋の店舗となるのは、今は使われていない父の中華料理屋だ。 新たに物件を探したり、何よりお金が掛からないのはありがたい。   ただ、中華料理屋の設備でパン屋は開けないのでリフォームが必要だ。 沢山のパンが焼けるオーブンも入れないといけないし、発酵するためのスペースも必要。 生地をこねるための作業台も広く欲しい所だ。 「リフォームだけで結構掛かるんじゃないか」 計画書にざっと視線を巡らせた父は、ちらりと上目遣いにそう言った。 「お金でしょ。うん、それはそうなんだけど」   リフォームにお金を掛けなければならない分、他を節約すれば何とかなるんじゃないだろうか、というのが私の見立てだ。 「それあそこは……洒落た店にするには綺麗とは」   言えないだろ。最後の言葉に口ごもる。 父も、自分の店を悪く言うのが不本意なのだ。 だが、そう言わなければならないほど、確かに父の店は綺麗とは言い難い。というか、正直言うと汚い。 それは四十年という月日のせいでもあるし、それだけの長い間、蓄積してきた油汚れがそう思わせてしまう原因でもある。
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