第2話 桜舞う、ご神木の下で。

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「掃除は私がやる。リフォームに関しても、出来ることは手伝って人件費を削減するつもり。まぁとにかく、安くで請け負ってくれる工務店を探したいんだけど」   勢いよくテーブルに置いた缶が、かつん、と軽い音を立てた。 「それは明石に頼む」 「あかし?」   誰だっけと首を傾げる私に、父は自分のお腹に手を当て、大きく弧を描いた。 お腹が出ている人、と言いたいのだ。 「明石ってうちの店にも来てただろ。かみさんと離婚してこっちに戻って来た」 「あぁっ、あの人」 一年前、くじらベーカリーで働き始めて間もない私に「苦労かけたんだから親孝行しなよ」と言ってきた人だ。 あの頃はその言葉にショックも受けたものだ。 今なら同じ言葉を聞いても笑って返せる気がする。 だって、私はようやくその「親孝行」のスタート地点に立てたのだから。   自分の店を持てば。それも、父の中華料理屋だった店舗を復活させるのだから、きっと親孝行にはなる。 それに加えて、キッチンカーで父との時間も増える。 どうだ、親孝行だ。と胸を張って言える日も近い。 「明石さん、工務店で働いてるの?」
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