第2話 桜舞う、ご神木の下で。

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冷えたスポーツドリンクが、からからに乾いた身体を瑞々しく満たしていくのがわかる。 これが生き返るという事か。   明石さんたちに飲み物を渡しに行っている父を横目に、私はひとり、日陰にしゃがみ込んだ。 午後二時。夏のこの時間は、商店街の景色も蜃気楼でぐにゃりと歪む。 「タケちゃん。この店、本当にあの子の好きにさせてやるんか」 「あぁ」 父は短く応えて頷き、タオルで顔を拭った。 「このゴミ箱はどうするよ」   明石さんは、真後ろを振り返った。店の前に置いてあるゴミ箱だ。 あれもまた、開店当初からずっと置いてある。 側面には酔っぱらいが蹴り飛ばした時にできた大きなへこみがあるままの、くすんだ灰色のゴミ箱だ。 スイング蓋の、六十リットルもの容量のあるそれは存在感を放っていて……正直言って汚らしい。   私の予定では真っ先に撤去してしまうつもりだ。 空いたスペースにプランターでも置いて花でも育てられたら良いと思っている。 「ほたるはどう言ってた」 「いらないって聞いてるけど」 「……そうか」 「ま、置いておけば良いんじぇねーか? 実用的なもんだし」 なぁ、と明石さんの視線がこちらに向けられた。 「いや、でも――」 「ほたる」   私の言葉にかぶせるように、父が言う。 「ゴミ箱は置いておいてくれ。別に、あって困るものでもないだろう」   いつになく有無を言わせない雰囲気に、私は納得しないまま 「わかった」   そう言うしかなかった。
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