第2話 桜舞う、ご神木の下で。

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「私、意外と器用なんじゃない」   調子に乗った流れのままに、工事から一か月たった今。 商品を並べる為の棚まで手作しているのだから、人間は本気になったら自分が思っている以上の能力を発揮できるのかもしれない。 世間が言う「無双状態」ってこういうことなのかしらとさえ思える。   全体的に錆びつき、灰色がかっていた店内は、見違えるほどの清潔感に溢れていた。 クリーム色の壁紙に、全て張り替えた床板。 ごく普通の引き違い窓も、レジ横は両開き窓にし、それ以外の店内の窓は格子付きの上げ下げ窓にした。 玄関も小窓付きの水色の木製ドアにして貰い、ペンダントライトの丸い光が店内を優しく照らし出す。   心なしか、店内の空気までもが入れ替わったような気にさえなる。 全体的に油っぽい匂いがしていたのに、今や木の匂いがする。   これから観葉植物なんかもひとつ飾れば、良い雰囲気が増すだろうか。 汗臭いこの工事期間を終えて、ようやく訪れたご褒美のような瞬間だ。   棚用の板の、最後の一枚を留めようとしている時だった。 厨房の作業を終えた明石さんが、梯子を抱えて出てきた。
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