第2話 桜舞う、ご神木の下で。

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明石さんは「ほぉん」と納得したのか、そうでないのか。 だが、すぐに鼻の下を掻いて唸った。 「ところでよ」   言いにくいのか微妙な間が生まれる。 工務店の従業員の男性がトラックのエンジンを掛ける音が聞こえててきた。 「商売をするってのは大変なわけだが」 「は」   よいしょ、と梯子を反対側の肩に担ぎ直し、真っ直ぐに私を見降ろした。 父と同じ六五歳だが、父の二倍は軽くある体格に思わず身体をすくめる。 「親孝行の意味、間違えるんじゃねぇよ」 「意味――」 「明石さん、行きますよ」   軽トラの運転席から男性が大声を張り上げた。 「じゃあな。まぁ、頑張れよ」   この一か月、騒がしかった店内が一気に静まり返った。 「親孝行の意味……」   がらんとした店内に、困惑の声だけが虚しく響いていた。
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