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第3話 忍陵町商店街「旅するアヒルパン」
柴犬スマイルのサラリーマンこと、風早爽の娘・明日香に睨まれた事は、どうやら私の心に大きなダメージを与えたらしい。
「入学式の帰りなんです。校門は撮影待ちの人の列が凄くて。えっと……パン屋さんに、撮って頂けて良かったです」
恥ずかしそうにはにかみながら頭を下げる風早さんに、私はちゃんと自己紹介できたのか。
それすら覚えがない。
オーブンの焼成完了を知らせる音に、ようやく我に返ってミトンを手に嵌めた。
午前六時。
ドアに取り付けたプレートを裏返す。
オープンの文字が朝陽を浴び、手作り看板のアヒルの親子が商店街を流れていく人たちに笑顔を振りまいている。
「アヒルパン、開店」
両手をひとつ打ち鳴らし、生成りのエプロンの蝶蝶結びを改めてきつく締めた。
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