第3話 忍陵町商店街「旅するアヒルパン」

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食パン、クロワッサン、ウインナーロールに、メロンパン。 サンドイッチは玉子やツナ、ポテトサラダやBLTサンド。 正直、まだコロッケパンやフランスパンなど種類を増やすまでは余裕が無いが、少数精鋭であれば一人で店を回すことも可能だろう。 ただ、風早さんが来た時のためにラスクは用意しておいた。 娘さんが好きだと言っていたから、せめてこれだけでもと思った。 風早さんの娘――明日香ちゃんの「やだ」という全力の拒絶が脳裏に蘇る。 惨めさと恥ずかしさがフラッシュバックして、下唇を噛み締めながら心の中で叫んだ。 あぁ、もう。 子供はみんな無邪気に挨拶くらいしてくれるものだと思っていた自分が大馬鹿だった。 何を根拠にそんな思い込みをしていたのだろう。 身の周りに小さな子供がいないからか、子供というものの生態をよく分かったていなかった。   小学一年生にこんなにも心を乱されるとは。   頭を振って、余計な考えを振り払った。 足早に駅へと流れていく人の波を眺めながら、店内のがらんとした冷たい空気に嘆息する。
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