第3話 忍陵町商店街「旅するアヒルパン」

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開店からこうして見ていても、道行く人がゴミを捨てていくのだ。 ここにゴミ箱が無ければ、あの人たちはちゃんとゴミを持ち帰るのだろうか。 それとも商店街の道端に放り投げる人もいるのだろうか。 後者だとするなら、あの汚いゴミ箱でも置いておく意味はあるのだろう。   ここにゴミ箱が無いことで他のゴミ箱に持って行くならまだしも、道端に捨てられ、車に轢かれ、人に踏まれ。 そうして商店街を汚してしまうのなら、うちのゴミ箱に捨てて欲しい。 それは、まぁ私にだって理解できる。   っていうか、新しいゴミ箱に買い替えれば良いじゃん。そうだ。そうしよう。 明石さんにも父にもゴミ箱を置いておけと言われたのだ。 ならば、ゴミ箱を新しいものに変えればいい。なあんだ、それだけの事だ。 「おはようございます」 閑古鳥が鳴くパン屋に訪れた救世主。 少し緊張した面持ちで店内を見回しながら浮かべる柴犬スマイルは、今の私にはピンチを救うヒーローにしか見えない。 「風早さんっ」   興奮のあまり、唾液が気管に入ってむせ返ってしまった。 「だ、大丈夫ですか」 「平気です、本当、平気です」 風早さんが心配そうに近付いて来るのを両手で制した。
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