第3話 忍陵町商店街「旅するアヒルパン」

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「明日香には母親がいないので、女性とどう接して良いかわからないだけだと思うんです」   袋を受け取った風早さんは、何気なく見た腕時計にハッとしたように 「いけない、電車の時間が。では」 「あ、はい。いってらっしゃい。お気をつけて」 店を出て、窓越しにもう一度私に会釈をしてから、大股で駅の方へと去っていった。   母親が、いない。   厨房からオーブンタイマーが鳴り響く。 「はいはい、今行きますよ――ん?」 何だろう、今の。何かが聞こえたような。    立ち止まり、耳を澄ませてみる。 BGMも無い店内は、私が息を潜めると全くの無音になる。 店の前を行き交う人たちの笑い声や車の音が、迫っては遠のいていく。 「気のせいかな」
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