第1話 ほたるの決意

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これまで散々ルールだ門限だと決められた人生だった。 高校生になっても門限は午後六時。 一分でも過ぎると、玄関前に父が仁王立ちしていて、謝るまで家に入れて貰えなかった。 高校の帰り道、迷子の二歳の女の子を交番に連れて行き、母親が迎えに来るのを一緒に待っていたという時だけ、黙って家に入れてくれたのだけれど。   父はどんなときも怒鳴ることはなかった。 ただ、無言のまま真正面から私を見据える姿勢が、それ以上の言い訳もルール破りも許さなかった。   だから正直、この展開には驚いたのは否めない。 まぁ、反対されたからと言って、今更引き下がるつもりも無いのだけれど。   これまで、何をするにも駄目だ駄目だと言われた私は、父への反抗心からろくに口を聞いてこなかったのだ。 どんな大切な時にも、意地という名の厚い殻が、私が行動を起こすのを阻んでいた。   だが、私ももう成人だ。 これを機に、父との関係を修復しようとしているのだから、言葉選びは慎重にしないと。   年齢だけは大人になっても、心は相変わらず子供のままな自分にうんざりする。 「そうだな」   父はあっさりと短い言葉で認めた。 「その代わり、何をするにも責任は出てくる。ほたるも立派な社会人だからな。もう何も言わん」 「……そっか。ありがと」   車内に沈黙が流れた。 そういえば、と成人式の会場を出てすぐの父を思い出して切り出した。 「私がこの話をする前、何か言いかけてたよね」  
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