危険な愛とチョコレート

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急に村長に呼び出され、思い当たることがなかったレニーシャは驚いた。 (私、何かしたっけ?) 村長の家へ向かう途中に何回も何回も考えてみたけれど、やっぱり思い当たる節はなかった。 村長の屋敷の中に入ると、王家の使いだという人が二人もいて、レニーシャはさらにびっくりした。 しかも二人とも黒いローブにすっぽりと身を包んでいて、何だか不気味だ。 「今すぐ我々と一緒に城まで来て頂きたいのです」 と言われても、レニーシャは何が起こっているのか分からなかった。 (私が?お城に?なぜ?) お城どころか、生まれてから17年の間、レニーシャはこの村から一度も外に出たことがない。 村の外に行ってみたいと思ったこともなかった。 「この人たち、本当に王家の使者なんでしょうか?」 レニーシャは小声で村長に確かめてみた。 悪い人攫いに狙われていると考えた方が、まだ現実的だ。 「ローブについている紋章は王家のものだ、間違いない。 ここにやって来た馬車にも同じ紋章の彫刻があった」 どんな悪党でも、王家の紋章を偽造などしない。 そんな恐れ多いことは誰もできない。 「あの、誰かとお間違いではないでしょうか? 私、レニーシャなんですけど」 レニーシャは使いの者に言ってみた。 「いえ、我々が探しているのは間違いなくレニーシャ殿です。 今すぐ城まで、ご同行を願いたい」 「一体どのようなご用件なのでしょうか?」 ごく当たり前の疑問をレニーシャは口にした。 「それは我々も知らされておりません。 我々の任務はレニーシャ殿を城までお連れすることだけです。 詳しいことは城でお聞きください」 「何の用事か分からない、何をされるかも分からないで、今すぐお城に行くなんて無理です。 家を空けるなら片付けておかなければならないこともありますし、支度だってあります」 レニーシャは困惑しながら言った。 「お願いします、我々としても手荒なことはしたくないのです。 おとなしく来ていただけるのなら、我々は危害を加えるようなことは致しません」 使者はそれまでの事務的な口調から、嘆願口調に変わった。 王家の紋章を背負う者たちの言葉だ。 嘘はないだろう。 「我々は危害を加えない」 では城に着いた後、他の誰かに危害を加えられる可能性は? 「手荒なことはしたくないということは、いざとなれば手荒なことをしてでも、私を無理矢理に連れて行くということでしょうか?」 「その通りでございます」 その横暴さにカチンときたレニーシャが何かを言いかけて、村長が遮った。 「レニーシャ、行った方が良い。留守なら心配しなくても良いから」 どうやら行くしか選択肢はないらしい。 レニーシャは覚悟を決めた。
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