黒衣の苦労

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幕を閉じる折や幕間にも大向こうからの声がけがあるのですが・・・。 この度のように、変化の多い出し物、つまり私どもが暗躍いたします早変わりですね、それが見せ場となっている場合に、黒衣どもにまで声をかけてくださることがあるのです。 かけ声を掛けます場合、名前ではなく役者さんであれば屋号で呼んでいただく訳ですが・・・。実は私どもは大道具に属する者であって、本来屋号など持ち合わせておりません。 昔、江戸時代に見事なカラクリの舞台を作る者がいて、「大道具!」というかけ声をいただいたことがあったそうですが。 私の場合ですが、あるときオチャメなお客様が「まぐろ屋!」とお声がけくださいまして・・・。全身まっくろけの黒衣にひっかけたジョークのおつもりだったのでしょうが。それが他のお客様に大ウケいたしましてね。それからというもの、度々「まぐろ屋!」というかけ声を頂くようになったのです。 そして更に、ユーモアのお好きな方がおられましたようで「まぐろ屋」と染め抜いた楽屋暖簾まで賜ったのです。 いやはや、本来目立ってはならない立場ですのに。ありがたいと申しますか、勿体ないと申しますか。
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