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「紗弥加さん、もうそろそろ考えてもらわないと」
「何をですか?」
「10年になるのに一人の子もないのよ。貴久は一人息子。あの子に子どもができないと家が途絶えてしまうのよ。もっと若い子をもらえばよかったのに、同級生のあなたでしょ。ホントあの時反対しておけばよかった。妊活の成果もないようだし別れることも考えたらどうか、ってこと」
姑のイヤミも聞き飽きた。私達夫婦に子どもがないのは私のせいではなく夫である貴久が無精子症だからできないのだが、夫はそのことを親に言えていない。私達は子どもがない生活も悪くないと気持ちは一致していて夫婦仲はいい方だと思う。
「先ほどお隣の奥さんがいらっしゃって……、柿の木を」
「切ったんでしょ。でもまだ枝が敷地内に入り込んでるし、イノシシも増えてるんだから、もっと思い切りよくばっさりやればいいのにねえ」
「でも、鬼門だからこれ以上切れないのでごめんなさい、という話で」
「迷信よ、そんなもん」
「そうですか?」
「さっきの話だけど、千夏さんにうちの子を産んでもらうのはどう? あなたもそれなら……」
私は姑の話を無視して別棟の家に戻る。五つ下の妹の千夏に夫の子を産んでくれと頼むつもりなのか。質の悪い冗談である。3人の子がある妹と比較してただ私を貶めたいだけなのか、姑の気持ちが全くわからない。
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