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「それ、何?」
「クローゼットの奥を片付けていたら出てきたの。10年前、結婚するときにお祖父ちゃんが持たせてくれたの。しまい込んですっかり忘れていたの。箸みたい」
「箸?」
「うん」
「見せて」
木箱の上に小さな紙が貼ってあって「黒柿箸」と製作者の印があった。
「黒柿? 黒柿って小さい真っ黒の柿? 昔、小学校に入った頃かな? 祖母ちゃんが近所からもらってきたけど食べる気にならなかったなあ」
「それとは違うと思うけど」
「あっ、そうなの?」
夫はそう言うとスマホで「黒柿」を検索し始めた。
「樹齢100年以上の柿の千本に一本も出ないらしいぞ。えーっと詳しい理由はわからないみたいだが、柿の渋? タンニンが木目と違う黒い模様になるんじゃないか、ってことらしい」
「ふうん」
「高そうだし、売るか?」
夫はそう言って木箱を開けた。
「なんだか箸の長さもバラバラだし、明らかに本数が変。スプーン? さじ?も無理矢理入れてあるし」
「贈答用ではないのよ。お祖父ちゃんが確かそのまたお祖父ちゃんからもらったと言っていたような……。あの家の裏庭に大きな柿の木があったらしいの。きっとお隣の柿の木より大きな。でね、その木を切ったら、黒柿だったらしくて、材木にして残してあったのをもらったそう。で、お祖父ちゃんが知り合いのつてでこの工芸さんに家族でつかう箸などをつくってもらったらしいの」
「家用なんだ。ちょっと贅沢な気もするな」
「でしょ? で、そのうちと思ってしまっちゃってたのね」
「あっ、それなら母さんにどう?」
「そうね、今度の日曜が誕生日だから、お義母さんにラッピングしてこの中間の長さのをプレゼントにしましょうか」
「すごくいいよ。任せた」
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