5人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
女の子はアクセサリー。キラキラ輝いていないといけない。口癖のように、そう言っていた彼氏に「君より素敵なアクセサリーを見つけた」そんな言葉で捨てられた日は雨だった。
今日も外は雨。正面の自動扉を開くスーツ姿の人達は私達に目も向けずエレベーターホールに歩いてゆく。
「なんか受け付け嬢の仕事って暇だよね」
横に座る加奈が笑顔を貼り付けたまま呟いた。勿論、私も笑顔は絶やさない。
「今日が暇なだけ。忙しい日もあるじゃん」
「そうだけどさぁ〜。アズはこの仕事楽しい?」
「仕事なんて、みんなこんなモンでしょ。加奈は良いじゃない、営業部のエース、真城さんと付き合えたんだから」
「まあね。彼ったら同僚にあたしのこと自慢するから噂が広まって困っちゃうわ」
受け付け嬢と付き合える。どうやら私達と付き合えるのは男のステータスになるらしい。コミュ力優秀、顔良し、スタイル◎。じゃなきゃ、この大企業の受け付けに座ることはできないからだ。
「その後、アズはどうなのよ?」と加奈が少しだけ私に顔を傾ける。「先週の雨の日に会った男といい感じだったじゃん」
「あー、あの人ね。イケメンだけど中小企業のサラリーマン。年収そこそこで対象外。雨に困ってそうだったから予備の傘を貸してやっただけで終わり」
「なんだぁ〜。甘いストーリー期待したんだけどな」
「ないない。現実は過酷だわ」
本当は嘘。あの後、一緒にバーで飲んで泥酔い。気づいたらホテルで抱かれてた。
彼氏に捨てられて傷心だったから。寂しかったから。理由はそんなとこ。だけど、決めてになった台詞があった。彼は散々と泣きじゃくる私にこう言ったのだ。
『女はアクセサリーじゃない。心を持った人間だ』
瞬間、落ちた、と思った。
彼の名前は佐々木隆也(三十歳)私より六歳年上で清潔感あるそれなりの美男。彼は初めて私を宝石ではなく人間だと認めてくれた人。
彼となら未来があると淡い夢を見た。だけど、朝に告げられた言葉で地に落ちる。
「ごめん、僕は既婚者だ」
すぐに目線が彼の左手に落ちた。左手の薬指に細長く光る銀色の線。彼が誰かのモノであるという証。
あの時、なんで連絡先なんか交換しちゃったんだろう?だから繋がってしまう。今日、私と隆也は待ち合わせている。二度目の夜……。それを待ち侘びている自分がたまらなく怖い。
「ちょっと邪魔!」
突然、響いた甲高い声で回想モードから現実に戻される私。
「すいません」
そこには、青い作業服を着てモップを持つ女性がいた。ビルの清掃員だ。どう見ても四十代。黒髪を後ろに束ね、化粧一つない素顔。
加奈がクスリ笑う。
「女もああなったら終わりね。誰からも愛されない」
雨の日は特に床が靴跡で汚れる。彼女は中越しで必死にモップを走らせていた。醜い、その醜すぎる容姿に同情する。
「そうね。ああはなりたくないわね」
私はそう言うとスマホで時刻を確認した。後五分で業務終了。ドキドキする。
最初のコメントを投稿しよう!