狐の嫁入りハイパー

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縁側から見える庭は、ヨシオ達の方は相変わらず晴れている。 だが前方に座るフウコの後ろの方では小雨がはらり。 あちらとこちらで天気が違う。コンな不思議な事もあるものだ。 天気雨の事を俗に「きつねの嫁入り」とも言う。 由来については諸説あるらしい。 きつねは不思議な力を持ち、天候を操ったり人を化かしたりすると言われていた。 そんな彼らが山の上で結婚式を挙げていて、人目につかない様に山を雲で隠し、人里に雨を降らせたのだ、とか。 晴れているのに雨なんて、まるできつねにつままれているみたいだから、とか。 また、人生で最もめでたく晴れやかな結婚式の最中に、なぜかはらりと花嫁や花婿の頬を濡らす降るはずのない不思議な雨も、これになぞらえて「きつねの嫁入り」と呼ぶのだとか。 そうだ、これは祝福の雨に違いない。 嫁ぐ娘を送る母の感動の涙だと思えば、なんとも尊く愛おしい。 いや、どうやらフウコの瞳は本当に潤んでいる様で、ヨシオは見ないふりをして麦茶をいただくうちに雨はぴたりと止み、ミーンミーンとのどかな夏の景色に戻る。 「ヨシオさん、お仕事は何をしてらっしゃるの?」 「はい、株式会社フォックスの本社に勤めております」 「あら、あの有名な。お忙しいのでしょうね」 「ええまあ。ですが、必ず月に一度は二人でおじゃましたいと話しています。ねえヨウコさん」 「もちろんよ!お母さん」 ……ぱらぱら……ぱらぱら……ぴたり。 またフウコの後ろで天気雨がぱらぱらと降り、すぐに止んだ。 ああ、なんと尊い音だろう。
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