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「ふふ、いやねえ、大丈夫よヨウコ。
コンな所だけど私は一人で楽しくやってるんだから、気にしないで」
……さああっ……ぱらぱら……ぴたり。
今度はヨシオの後ろの方から雨音がして、すぐにぴたりと止む。
どうやら隣に座るヨウコも今の言葉に瞳を潤ませている様だ。
親思いの良い子じゃないか。もちろんヨシオは気付かぬふりをする。
嫁ぐ娘の涙。花嫁の涙。
古今東西、幾多の人の胸を打った涙。
ああなんと愛おしい。
「そうは行かないわよ。
落ち着いたら三人で旅行とか行こうよ!久しぶりに温泉とか……
あ、一度でいいからネズミーランドで思いっきり遊んでみたいって言ってたよね!?」
……ぱらぱら……ぽつぽつ……ぴたり。
今度はフウコの後ろの方から雨音が。
「この歳になったらもう恥ずかしいよ。
そんな事よりまず二人で新婚旅行でしょ?
私の心配なんていらないから。
新婚生活っていいものだけど大変な事もあるんだからね」
……ぽつぽつ……しとしと……ぴたり。
降っては止み、止んでは降る雨。
今度はヨウコの後ろから聞こえた。
幸せではあるが目のやり場に困るヨシオ。前も隣も直視出来ない。
ああ、何だかヨシオも涙腺に来てしまった。
視界が潤んで、向かいに座るフウコの頭の上に、ネズミーランドでギャルが髪に飾る付け耳が見える……気がする。或いはテレビのCMで観た様な三角の耳。そんな馬鹿な。
ええい、男の涙などみっともないとヨシオは目をぎゅっと閉じた。
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