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フウコはすっくと立ち上がり、こんこんとヨウコにお説教を始めた。
その頭には三角の耳がにょっきり生えている。
どうやら付け耳やコスプレではなさそうだ。
「ヨウコ、あんたは私たち一族の最後の希望なのよ!もう妖怪が妖怪として生きて行ける時代じゃないの、人間としてあなたは都会で子供を産んで幸せに暮らすのよ!」
びゅうびゅうびゅごおおおおおおおおお!
フウコが言葉の最後にこおおーんと鳴くと縁側のすだれが吹き飛び、二枚に割れてぐっさりと庭に突き刺さった。
負けじとヨウコも立ち上がる。
そのスリムなお尻には、何本かに枝分かれした茶色いもふもふの尻尾が揺れている。
自在に動かしている所を見るとどうやら本物らしい。
「一族とか妖怪とか、そんなのはどうでもいいの!私はヨシオさんとお母さんと三人で幸せになりたいだけなのよ!」
ごろごろぴかあっずどどどどおーーーん!
ヨウコもまたこおおーんと嘶く。
窓ガラスに振動でひびが入り、風鈴の紐が千切れて、ちりりーんと悲しい泣き声を残して何処かへすっ飛んで行った。
おそらくヨシオにだけは聞かれてはいけない事を、ヨウコが今まで隠し通して来たであろう秘密を、惜しげも無く親子で叫んでしまっている。
だが客観的には最早それどころの騒ぎではない。
ざんざんばりばりどばどばどばばば!
雨戸が勝手に外れて軽快に庭を側転している。
開放されたままの窓から玄関から縁側から、炸裂弾の様に殴り込む雨はたちまち家の中を川に変えた。
稲妻は天空を舞う光の竜となり、牙を剥き地上に総攻撃を仕掛けている。
屋根よ吹き飛べ家よ砕けよと荒れ狂う天変地異に鳴り止まないJアラート。
結婚は人生の墓場、等と言うが、なるほど式を挙げる前にここで一度亡骸になれと言うのか。
これでは家もたまったものではない。
どろん!と黒い瘴気を吹き出すと、簡素な古い民家の擬態を解いて築何百年にもなる妖怪屋敷の正体を現したが、それでも大黒柱がぎしぎしと悲鳴を上げた。
その時二人は同時にはっと我に返る。
──しまった!ヨシオさん!──
いやいや、何を今更。
しかし。
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