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なんと、腰まで濁流に浸かり唸る暴風に晒されながら、それでもヨシオは微動だにせず正座して目を閉じたままだった。その頬には微かに笑みすら浮かべているではないか。
フウコがその眼力を発揮するまでもなく、一目で理解した絵に描いた様な弱者男性、ヨシオ。
学業も仕事も優秀な彼だが、こと恋愛に関してその半生は、フウコの想像を絶する程に凍える様な土砂降りの雨に打たれ続けて来たのだ。
魑魅魍魎が跋扈する、この時代の雨に。
それを思えばヨシオにとっては、この豪雨さえも優しく暖かい。
地球の終わりかと思える程の激しさは、そのままヨウコとフウコの愛であり、二人が描く幸せな未来にはヨシオの存在が確かに組み込まれているのだから。
彼はここに来た事の意味を、そして掴もうとしている幸せを、今こそ噛み締めていたのだ。
そうだ。
土砂降りの中、雨が上がる場所を探してやっとここまでたどり着いたけれど、結婚とは決して良いことや幸せな事ばかりじゃない。
お互い何も間違っていないのに、突如として嵐が吹き荒れ雷が落ちる事もあるのだ。
俺を待っていたのはまた雨だった。
今は暖かい雨だが、いつか氷雨に変わる事もあるだろう。
だが、それでもいい。
それでいい。
だってここからは一人じゃない。
一人じゃないんだ。
そう思えば、雨も嵐も雷も。
ああなんとも尊く愛おしい。
ああ抱き締めてしまいたい。
もうだめだ涙が止まらない。
涙ぐみながらヨシオは立ち上がり、不意にヨウコの肩をがしっと抱いた。
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