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「俺は『シャボン玉』ってものを見たことないから分からないんだけど」
「どうかな?似てるかな?」
その時、彼は初めて僕に対して意思のこもった目を向けました。
それは、興味とか好奇心に分類するにはあまりに純粋な、原始的なものでした。
そう問われた僕はあらためてこの世界を見回します。
水面のように光を反射する球体状の壁に、全身を包む浮遊感、地面の質感。
「……似てる、かも」
「そっか」
彼が僕に初めて見せた彼の笑顔には、何が詰まっているのか。
僕には想像もできませんでした。
***
「いつまでって言われても、ここには時間がないから」
僕のいつまでここにいればいいのか、という問いに彼はそう答えました。
「時計がないってこと?」
「時計じゃなくて、時間がない」
怪訝そうな顔をする僕に、彼はうんざりだと言いたげな顔をしました。
僕は彼の細かい表情をだんだんと読み取れるようになっていました。
「下から来る奴らは時間の話ばかりだ」
「ここには時間なんてない。下の奴らだけだ、時間なんて気にするのは」
「僕の他には、どんな人が来たの?」
「君の前がチェスのチャンピオン」
「へえ」
チェスの心得などない僕は生返事をするしかありませんでした。
「あいつも時間の話が好きだった」
「こんなところで無為に過ごすのは時間がもったいない。チェスがやりたいって」
「そりゃあね」
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