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しかし、僕の吹いた空気は全く管を通らず、思わず咳込みました。
「ここじゃ無理なんだよ、空気が違うから。形だけだな」
そう言うと、彼は両腕を前に出すと肩幅に広げました。
「これなら鳴る」
彼が作り出したのは見たことはあっても馴染みの薄い、大きな楽器でした。
「……アコーディオン?」
「そう。そういう名前だったな」
「俺がここで最初に会った人間が、これの奏者だった」
「そういえば、君はいつからここに?」
僕は見慣れない楽器の操作を手探りしながら、ふと気になったことを聞いてみました。
「物心つく前には寝たきりの体だったんだ」
「だから、いつから魂が離れたのかも分からない」
「でも、こうして僕と喋っているじゃないか」
何の知識も無いなら、コミュニケーションは成り立たないはずです。
「教わったんだよ。ここに流れ着く人はたまにいるからね、君みたいに」
「下の世界のことも、知識だけで実際には見たことないんだよ」
「……」
「あ、でも知っているものもあるよ」
彼に対する同情の言葉を探す僕を見て、彼は言葉を継ぎ足しました。
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