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「それだけなら、このノートを鑑識に持ち込めば済む話です」
彼は何か口を挟もうとしてグッと飲み込む仕草をした。
「あなたの口から直接聞きたいのです。このノートの正体を」
「お話していただけませんか?」
「……いいでしょう」
彼はそう言って、持っていたカップの中身を飲み干した。
「私が持つ答えがあなたの期待するものとは思えませんがね」
「ありがとうございます」
「結論から言いましょう」
「このノートは凶器です」
「……どういう意味ですか?」
思わず彼の顔を覗き込むが、見えたのはここに入ってきた時と変わらない冷たい表情だった。
「そのままの意味ですよ」
「彼を死に至らしめたのはこのノートです」
***
「最初に彼と出会ったのは、彼の母親がこのクリニックに連れてきたときでした」
彼は下を向いたまま、ポツリポツリと話し始めた。
「当時、彼は14歳」
「母親の相談は『息子が息子でなくなってしまった』というものでした」
「きっかけは、中学校の階段で転倒し後頭部を強打し意識を失ったこと」
「幸いにもすぐに目を覚まして特に後遺症も残りませんでしたが」
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