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梅雨明けの朝5時、寮の共用TVを見上げるブルーフェニックス男子隊員達。まだパジャマの者もいる。
「大変だな……横須賀の土砂災害」
「雨が続いたからなあ」
寮長の武田が唸る。
「消防も自衛隊も全部あっちにかかりきりだ」
「そういうこと」
牧田の台詞の後、その場に天神みことがやってくる。早朝の彼女の完璧な身繕いは、部下を持つ者の鏡のように見えた。
「ボス、やっぱり?」
凪の尋ねに、みことが頷く。「そう、やっぱり。」
彼女は部隊の方を向くと、カッとヒールで立って演説。
「足りない人材は今の所、ブルーフェニックスで補うしかなくなった。私たちは普段国家権力とは対立してるけど……困った時はお互い様! わかったね!」
「了解!」
みことのいでたちが語るのは、金持ちの早寝早起き健康ライフではなく、おそらくその逆の徹夜だ。土砂災害で、政府、メディアとのやりとりが続いたのだろう。 彼女は今、ギンギンに冴えてる時間。多分昼からキツくなるやつ。
警報とアナウンス。
「一部の組織が大学占拠。立てこもっています。場所、成浜大学。場所、成浜大学――」
「今かよ」
「仕事」
「仕事が来た」
今日の出動待機は、第三部隊。大当たりだ。窓口を他部隊に任せ、凪達がフル装備の支度をする。ボスが徹夜では文句を言うものも無し。
大学に向かうトラックの中。塔吉郎がタブレットを操作するマナに尋ねる。
「状況は?」
「組織名“悪の帝国”。大学占拠のち、男子学生のみを解放。女子学生をとらえたまま、未だ投降せず」
「その目的は何だ」
「未だわからず。現在先遣隊が交渉中」
「悪の帝国って、ネーミングふざけてるだろ」
相田に続いた凪は歯噛み。
「ちっくしょ、成人したばっかのピチピチの女の子達を捕らえてハーレムやってんのか。許さん」
「いや、必ずしもそうとは……」
「奴らにも何か、事情があるんだよ」
半田と武田が冷静に言った。
凪を含んだ少数精鋭のブルーフェニックスが大学に隠密潜入。第三部隊、塔吉郎隊長配下は物陰に隠れながら、連なる建物屋上をワイヤーで移動。ある時眼下で女子学生が襲われかかっているのを目撃する。
塔吉郎が一瞬油断した隙に、凪が蹴躓いて、敵地のど真ん中に落っこちる。塔吉郎は見下ろして凪の無事を確認した。
「まあいい。あいつもプロテクターつけてる。敵を引き付けるためにわざと落ちたように見えたし……」
「僕もそう思います」
仁が続いた。
「だけど一人は危険だよ」
マナが心配そう。
「凪が中央で時間を稼いでいる今のうちだ。外堀を落とせ!」
「了解!」
塔吉郎の指令に、一同が唱和。
「いたた……」
敵地のど真ん中で凪が起き上がる。
「何者だ」
拳銃を構えた組織構成員に囲まれている。凪は両手を上げた。
「乱暴はやめてくれ。オレ、コスプレ屋さんの一般人だ。武具はやるよ。ほら、全部レプリカ。ブルーフェニックスの勇姿を見たくて追いかけてきただけだよ」
間。
悪の帝国組織メンバーがざわつく。
「おい、消防士さんの勇姿が見たくて付け火しましたみたいな奴がいる」
「それ……、すっごい罪になるんだぞ……」
3秒後、凪は真剣な顔でたずねた。
「そうなのか?」
「馬鹿だ。」
「馬鹿がいる。」
「括っとけ。勝手に自滅する」
凪は後ろ手をロープで括られながら悪の帝国本拠地の講堂に連れていかれた。
窓際に組織ヘッドと見られる男がいて、彼の目の前に上着を剥ぎ取られ震えている女子学生がいる。
凪はヘッドの子分たちに包囲された。座るように言われ、あぐらをかく。そして、ヘッドの男を見た。
見た目の評判のいい自分より苦労しているかもしれないが、なかなかの体躯の持ち主で努力家と見える。凪が尋ねる。
「ところで、あんたらの籠城目的は何?」
「あっはっはっは。見てわかるだろ。若い女! ハーレムだ!」
凪の声が意図してないのに裏返る。
「あ、あれ……? 他に何か、ないの……?」
「ない!」
「あるだろ、なんか……古臭い男のロマンとか、そんなの……よく考えたらきっと見つかるよ……」
「ない!」
「流石は我らが悪野正親分! ついて行きますよ!」
「ビバ、ハーレム!」
悪野に頭の悪そうな部下が続く。
凪は胸がキュンと切なくなり、気がつくと頭をたれて、自分の肩を小さくすぼめていた。
「おい、こいつ、女の子みたいにしょんぼりしてないか?」
察しのいいやつもいるようだか、悪野は凪を無視。
「はーっはははは! 要求はなぁい! 女だらけ城を満喫した後、刑務所で養ってもらう気満々の人の集まり、それが“悪の帝国”の全貌だ! さあ、大学生のハニーちゃん、オレとお仕事の続きしようか!」
「いやぁぁぁぁぁ?!」
悪野は美女を押し倒し弄び始めた。同時に誰であっても大きく息を吸える間隔が、3秒開いた。
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