記憶

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「…お待たせしました。帰りましょう」 「はい」 勤務時間を終え、制服を脱いだ東郷さん。 彼はワイシャツにネクタイに背広…。何故かスーツ姿になっていた。 「何で…スーツですか?」 「…ここに来る時、この服装で来ますから。帰りも同じです」 バーを出て、2人あてもなく歩き出す。 ……本当に、何の話題を振れば良いのか…分からない。 お話がしたいと言った東郷さん自身も、特に何か話題を振ってくるわけでも無いし。 どうしたら良いのだろう。 「東郷さん、本業は…スーツを着て行う職業なのですか?」 「………そうです」 何だか、これ以上本業については聞いてくれるな…とでも言いたそうな、東郷さんの雰囲気。 深掘りは…出来なさそう。 そう思い、黙り込んだ。 歩きながら軽く手が触れる距離感の私たち。 妙な空気感に、押し潰されそうだった。 「…西野さん」 「はい」 「その、昨日…キスしたじゃないですか…」 「………………え?」 歩く足が止まる。 え? キスした? 誰と? 「やっぱり、覚えていませんよね」 「え、と、東郷さんと…私?」 「そうです」 …え、うそ。 本当に…記憶が無い。 酔っていて記憶が無い間に私…初対面の人とキスをしたの? 「うわ…待って。東郷さん…本当に、本当に申し訳ございませんでした…!」 自分が最悪だ。 私…どれだけ迷惑を掛ければ済むのだろうか。
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