記憶

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ここが路上であることを忘れ、勢いよく土下座をした。 幸い、深夜1時を過ぎた路上。 周りには人なんていなかった。 「西野さん、止めて下さい。俺は…嫌だとは思いませんでしたから…」 土下座をしている私の腕を引っ張り、無理矢理立たせる。 力強い腕。 単純な私は、それだけで気持ちが高揚する。 「昨日散々叫んでいた藤山光莉って名前、藤山物産の御曹司ですよね。婚約者が御曹司なんて、西野さんは凄い人です」 「…あ………」 【西條綾乃】を知らない人に、事の経緯を説明するのは少し難しい。 何も言えず黙っていると、再び東郷さんが口を開く。 「ただ……藤山光莉が幼馴染の鷹宮梨香子を溺愛しているというお話は、その業界では有名なお話です。そして藤山家と鷹宮家の馬が合わないが故に、藤山光莉がお見合いをして婚約者を探していたと言うのも…有名なお話です」 ………知らなかった。 そんなこと、全く知らなかったけれど それ以上に…… 私が知らないことまで知っているなんて。
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