素性

6/7

202人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ
部屋に入るなり、東郷さんと唇を重ねる。 身を捩らせ、倒れこむようにベッドに転がった。 「【西條綾乃】さんと体を重ねるのは、初めてですね」 「…すみません」 「謝ることではありません…」 もう一度唇を重ね、東郷さんは手探りで服の中に手を入れる。 身体中を撫で回して両胸で見つけたそれを軽く弾く。 私も手を動かし…東郷さんの首元で締められているネクタイに手を掛けた。 スルッと解けるネクタイ。 それにまた色気を感じて…身体が疼く。 いつになく緊張するその行為。 私も、東郷さんも…何故か、手が震えていた。 「…綾乃さん、愛おしいです」 「え?」 「愛おしくて、大切にしたくて…すみません、手が…震えます」 言葉通りの震える手で、私の頬を触れる東郷さん。 私を見つめるその瞳は少しだけ潤んでいた。 「【西野聖華】さんを抱くのと、【西條綾乃】さんを抱くのでは…気持ちが全然違うことに…今気付きました」 そんな東郷さんの緊張感が伝わるからだったのだろうか。 私も…手が震える。 「……」 東郷さんの言葉に、返答する言葉が思いつかなくて。 私は東郷さんの首に腕を回して…力強く抱き締めた。 激しく揺れるベッド。 大人2人を支えるそのベッドは、何度も軋んだ音を出す。 全身を丁寧に愛撫され、心も身体も東郷さんで満たされていく。 そんな激しく甘く優しい時間に酔い、今日もまた目が冴えていた。 「…綾乃さん、避妊具取ってきます…」 「東郷さん…良いです」 「でも…」 逃げようとする東郷さんの腕を掴んで引っ張る。 幸福感に満たされている私は、思わず恥ずかしい一言を零した。 「…和孝さん、私も貴方を愛しています。…だから私、貴方となら…どうなっても良い…」 自分からそう言ったのに、恥ずかしさで顔を隠す。 けれど、その言葉に嘘は無い。 心の底から出てきた、私の本音だ。 東郷さんは少し驚いた顔をした後、ゆっくりと微笑んで優しくキスをした。 唇を離し、目を合わせる東郷さん。 その目から一筋の涙が零れた。 「綾乃さん、愛しています。結婚、しましょう…」 突然のプロポーズに驚いていると、東郷さんはそっと入ってくる。 汗と涙でぐちゃぐちゃになった私たち。 言葉にならない感情で溢れ苦しい私はまた、東郷さんの全てを受け入れた。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

202人が本棚に入れています
本棚に追加