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「どんだけVIP対応なんだよ。ばかじゃねえの、まじで」
「先に向こうから予定がズレるって連絡が来たから調整できたんだよ」
「おまえがロサンゼルスで所属するレコード会社って世界的に有名なデカいとこじゃん。しかも一発目のレコーディングがヒットチャート常連のアーティストだし。普通ならすぐに飛んで行くだろ」
「セレンくんの気持ちも分かるわよ。二人で一緒に行けるなんて本当に良かったじゃない。いろ巴ちゃんはロサンゼルスに行ったらどうするの? 何か考えてる?」
楓さんはにこやかな顔でロックグラスに口を付けた。
「わたし、向こうで子ども達にピアノを教えたいなと思いまして。できれば音楽教室を開いて、たくさんの子ども達と関われたらいいな、なんて」
「凄くいいじゃない。いろ巴ちゃんって英語はできるの?」
「いえ、ほとんど喋られないのでセレンに教えてもらいながら勉強してます」
「そんなの、すぐに喋られるようになるわよ。頑張ってね」
「ありがとうございます!」
観客が沸きステージを見ると、司会者が次に演奏するミュージシャン達の名前を発表しているところだった。
先に呼ばれたのは、先日レコード大賞を獲ったばかりの人気男性シンガーだったようで、彼がステージに上がるとライブハウス内が拍手と歓声に包まれた。
「ベース、セレンさん! パーカッション、愛流さん!」
二人の名前が続けて呼ばれるとさらに大きな拍手が沸く。
客席から「やばすぎるメンバー」「えぐい」と口々に聞こえ、ライブハウス内の熱気が増した。
わたしも二人の演奏が凄く楽しみだ。
セレンがベースを背負っている横で、オレンジジュースの入ったグラスをぐいっと傾ける。
「キーボード、いろ巴さん!」
「ぶっ」
口の中のオレンジジュースを吐き出しそうになり手で抑える。
ここでわたしの名前が呼ばれるなんて思わなかった。
このメンバーでわたしが演奏するなんて無理だ。
人選ミスもいいところだろう。
顔を上げると、セレンがくすくすと笑いながらわたしを見下ろしていた。
「いろ巴、呼ばれたよ」
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