九内晴廉という男

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「セレンさん〜! 最高でしたぁ」  セレンと一緒にステージを下りると、同い年くらいの3人組の女の子達がはしゃぎながら近付いてきた。  女の子達は爪先から頭のてっぺんまでおしゃれをしていて、ここへ来るために準備をしてきたんだろうと伺える。  瞳を大きくさせてセレンを見つめる様子はとても可愛い。 「え、演奏、とってもかっこよかったです!」 「大好きな曲をセレンさんに弾いて貰えて嬉しいです」 「どうも」  女の子達が一生懸命になって話しかけてくれているのに、セレンの態度は素っ気ない。  出会ってすぐの頃、今みたいに表情が冷たいと思うことがよくあったけど、いつの間にかセレンはわたしの前でよく笑うようになった。  セレンは人と距離を置きたがるところがあるから、素っ気ない態度をとるのは仕方がないとは思うけど、こういう時はもう少し愛想良くしてもいいんじゃないかとも思う。  でもわたしがでしゃばってとやかく言うことじゃないから、この場では黙っておいた方がいい。  セレンの後ろに立って、女の子達の様子を眺めた。 「インスタ、フォローさせてもらってます。あの、前からずっと好きで……」 「みりばっかりずるいよ、わたしも話したい! は、はじめまして! この間、テレビで見てすっごくかっこよかったです!」  セレンは唇を引き結んだまま、女の子達の話を聞いている。  こうして女の子達に囲まれて騒がれても、嬉しそうにしている素振りをこれまで一度も見たことがない。  どちらかといえば迷惑そうな態度をとることが多いから、どこでどうやって女の子を引っかけているのか気になるところではある。  今も目の前で女の子達が可愛らしくはしゃいでいるのに、セレンは眉一つ動かさず退屈そうだ。  もしもこの場で、この人クールぶってるんですけど実はとんでもないスケコマシなんですよ、と伝えたら女の子達はどんな顔をするんだろうか。 「お疲れ様です、いろ巴さん」  名前を呼ばれ振り向くと、さっき一緒に演奏したギタリストが立っていた。  茶色の髪に、くりくりとした大きな瞳の優しそうな男の人だ。 「お疲れ様です。さっきはありがとうございました」 「こちらこそ、ありがとう。僕、大ヶ谷(おおがや)(しゅん)って言います」 「初めまして、高園 いろ巴です。よろしくお願いします」
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