振り解いて、世界

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「知ってるよ。何でわたしなの? 無理だよ!」 「大丈夫だよ」 「無理だって!」  慌てるわたしの前に、セレンがそっと手を差し出す。  わたしを覗き込むように見つめ首を傾げると、ゆっくりと唇を開いた。 「おいで、後悔はさせないから」  純白の光が微かに滲んだ漆黒の瞳が、見たこともないくらい綺麗に輝いてわたしは思わず息を呑んだ。  普段は見えないこの優しさに、わたしは大きく包まれてきた。  一見冷たいように見えるけど、本当は温かい心を持った穏やかで繊細な、この人に。  セレンがいてくれるから、わたしは心から笑える。  我慢せずに泣ける。  格好つけずに本音をぶつけられる。  小さな喜びを分かち合える。  自分のことなんかどうでも良くなるくらい、セレンを支えたいと思える。  セレンとの出会いは偶然だったけど、二人の時間を過ごしているうちに、わたしの中で少しずつ奇跡に変わっていった。  その奇跡は今、わたしの生きる世界を優しく彩っている。  セレンがいて初めて輝きだしたこの世界を、ずっと大切にしていきたい。    差し出された手に、わたしの手を重ねる。  ぎゅっと握り返されると嬉しくて泣きたくなった。  二人が出会えた幸せを胸に抱いて、これからも一緒に歩んでいく。    この手を、この世界を―――振り解かずに。        振り解いて、世界  【了】      
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