237人が本棚に入れています
本棚に追加
/114ページ
「知ってるよ。何でわたしなの? 無理だよ!」
「大丈夫だよ」
「無理だって!」
慌てるわたしの前に、セレンがそっと手を差し出す。
わたしを覗き込むように見つめ首を傾げると、ゆっくりと唇を開いた。
「おいで、後悔はさせないから」
純白の光が微かに滲んだ漆黒の瞳が、見たこともないくらい綺麗に輝いてわたしは思わず息を呑んだ。
普段は見えないこの優しさに、わたしは大きく包まれてきた。
一見冷たいように見えるけど、本当は温かい心を持った穏やかで繊細な、この人に。
セレンがいてくれるから、わたしは心から笑える。
我慢せずに泣ける。
格好つけずに本音をぶつけられる。
小さな喜びを分かち合える。
自分のことなんかどうでも良くなるくらい、セレンを支えたいと思える。
セレンとの出会いは偶然だったけど、二人の時間を過ごしているうちに、わたしの中で少しずつ奇跡に変わっていった。
その奇跡は今、わたしの生きる世界を優しく彩っている。
セレンがいて初めて輝きだしたこの世界を、ずっと大切にしていきたい。
差し出された手に、わたしの手を重ねる。
ぎゅっと握り返されると嬉しくて泣きたくなった。
二人が出会えた幸せを胸に抱いて、これからも一緒に歩んでいく。
この手を、この世界を―――振り解かずに。
振り解いて、世界
【了】
最初のコメントを投稿しよう!