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「お……お邪魔します」
真っ白な大理石が敷き詰められた、ラグジュアリーな玄関に足を踏み入れる。
馴染みのあるベルガモットとムスクの微かな香りが鼻腔をくすぐると、本当にセレンの家まで来てしまったんだと実感した。
「どうぞ」
セレンに促されるまま靴を脱ぎ、幅のある広々とした廊下の端っこをこそこそと歩く。
スペースがたくさんあるのに、端に寄って歩くのは貧乏人の性かもしれない。
前を歩くセレンは重いベースを背負いながらも、肩の力が抜けて室内に漂う上品な空気に溶け込んでいる。
自宅に帰って来たんだからリラックスするのは当然だけど、両親がホテルやリゾート開発、不動産事業を展開する大企業の経営をしているセレンは、何をするにもどこか品があって一般家庭で育ったわたしとは違う。
きっと見てきた世界も、見えている世界も、これから見たい世界も。
セレンとは、過去や未来について深く話をする機会がなかったけど話さなくても分かる。
わたし達は何もかも、全部が違っていて出会えたのが奇跡だ。
セッションライブが終わってから最後の悪あがきをしてみたものの、半ば強引にタクシーに詰め込まれたのはもう仕方がないとして。
わたしがこれからこの家に住むなんて、まだ信じられない。
セレンは本気なんだろうか。
本気だから、ここまで連れて来られんだろうけど。
「やっぱり高級マンションは造りがしっかりしてるね〜」
何度もセレンの家には遊びに来たことがあるけど、今日はいつもと勝手が違う。
何を話していいのかわからず、今さら感が満載の感想を伝える。
「いろ巴の家がボロすぎんだよ。もっとマシなとこに住めばいいのに」
「放っといてよ。わたしはあの家が気に入ってるの」
「この前、焦って『雨漏りしてるぅ〜どうしよう!』って電話かけてきたくせに」
「そんな変な声出してない!」
セレンは小さく肩を震わせながら部屋のドアを開けた。
廊下から室内を覗くと、大きな出窓の前にダブルサイズのベッドとアイボリーの革張りソファ、ローテーブルが置かれている。
天井には、シックで爽やかなティファニーブルーのシャンデリア。
わたしが住んでいる一人暮らし用のアパートの部屋よりもずっと立派で広い。
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