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ノックもせずに洗面所のドアを開ける。
ドアの隙間から光が漏れて、しまったと思った時には遅かった。
柔らかなオレンジのライトの下で、Tシャツを脱ぐセレンが振り返る。
両腕にTシャツを引っ掛けたまま、動きを止めたセレンの背中は意外なほど引き締まっていて滑らかな陰影を作っている。
くしゃりと乱れた髪の隙間には、きらきらと揺れるフープピアスと、こちらを真っすぐ見つめる漆黒の瞳があった。
刺激が強すぎる。バクンと大きく鼓動が高鳴った。
「し、失礼しましたあぁ!」
大きな音を立てながら、慌ててドアを閉める。
セレンがお風呂に入っているかも知れないことくらい、少し考えたら分かるはずなのに。
色々と考えごとをしていて、まったく気が回っていなかった。
ドアに背を向け、わたしはその場で頭を抱えた。
まだボトムスを履いてくれていたのは不幸中の幸いだった。
もう少し遅かったら、ごめんじゃすまなかったかもしれない。
オレンジの光に淡く照らされながら、服を脱ぐセレンの姿が鮮明に蘇る。
一瞬だけど、海水浴以外で初めて目にした男の人の裸は色っぽくて綺麗だった。
セレンだからなんだろうか。
そういえば、お腹だって薄っすら割れていた気が……。
「おい」
「ひゃい」
すぐ後ろからセレンの声がして、どっと汗が吹き出した。
振り返らずに顔を伏せたまま返事をする。
「な、なあに?」
「入る?」
「何に!?」
「風呂に」
「入らない! 一緒に入るわけないじゃん!」
「は?」
「は!?」
「入るわけねぇだろ。なに想像してんだよ、変態」
顔を上げると、Tシャツを着たセレンが腕を組んで気だるげにドアにもたれかかっていた。
わたしを見透かすような目つきで見下ろし、片方の口の端をふっと持ち上げている。
「う、うるさいーー!」
この日から、入浴の時は必ずドアの鍵をかけるというのがルールになった。
これから1ヶ月、わたしは無事にこの家で過ごすことができるんだろうか。
今は不安しかない。
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