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「ここの家政婦さんに? こんなに朝早くから悪いな。それにお金だってそんなに持ってないし……」
「いろ巴は余計なこと気にしなくてもいいよ」
「でも……」
「じゃあ、おれが食べさせてやるよ。隣に座る?」
「遠慮せずにいただきます!」
高級そうな花柄のファブリックのイスに慌てて腰を下ろす。
セレンは小さく笑いながら向かい側の席につくと、マグカップを口元に運んだ。
「なんかいい匂いするね。レモンみたいな」
「これかな、レモングラスティー。飲む?」
「ううん、朝はお茶でいいや。セレンは朝ご飯食べないの?」
「さっきフルーツ食べたよ」
「フルーツだけ? そんなんじゃすぐにお腹すかない?」
「いつもは昼過ぎに起きるから朝は食べない」
「ふぅん?」
噛み合っているのか噛み合っていないのか分からない会話をしながら、セレンに借りたスウェットの袖を捲る。
こうでもしないと長い袖に食べ物が付いて汚してしまいそうだ。
お皿の両隣に置かれたフォークとナイフを手に取ったところでふと顔を上げると、セレンと視線がぶつかり合う。
「あ、何かわたし変なことした?」
「ううん。その服、大きいんだなと思って」
「そうだよ、ぶかぶか! 着心地はいいんだけどね、あったかいし。今日の仕事が終わったら、荷物を取りに一旦帰ろうかな」
「何で? いいじゃん、それ着てたら」
「嫌だよ。いちいち動きにくいし。赤ちゃんにでもなった気分」
「すっぴんは赤ちゃんみたいだからよく似合ってるよ」
「うるさいな!」
わたしはセレンを睨みつけながら、にんじんのグラッセを口の中に放り込んだ。
「童顔なのを気にしてるって言ったでしょ……待って。このにんじん、美味しすぎるんだけど……!」
「良かった、口に合って」
セレンが嬉しそうに頬杖をつく。
ほんのりとバターの香りがする、甘いにんじんの味を噛みしめながらこくこくと頷くと、セレンはテーブルに並べられた贅沢な朝食をちらりと見やった。
「たくさんあるから、好きなだけどうぞ」
「ありがとう……!」
カリカリのクロワッサンを頬張った途端、バターのキャラメリゼの香りが口の中いっぱいに広がってしっとりと溶けていく。
なんて美味しいんだろう。
思わず、テーブルの下でガッツポーズを決めた。
朝からこんなに美味しい料理が食べられるなんて最高だ。
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