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アパートへ戻ると、ブロック塀の前でセレンが一人佇んでいた。
黒のチェスターコートにグレーのモックネックセーター、耳元には小ぶりのフープピアス。
真っ黒なベースケースを背負ったセレンは、スマホを片手に何かをチェックしているようだった。
空から降り注ぐ金色の乾いた光が、ピンスポットライトのように直線を描いてセレンを照らし、何かの撮影かと思わせるくらい眩しいオーラを放っている。
いやいや、目立ち過ぎだ。
アパートの前を通る女の子達が、何人も振り返ってセレンを見て行った。
「お疲れ! 待たせちゃったね」
よ、と手を上げて声をかけると、セレンはすぐに顔を上げた。
「お疲れ。車だったから早く着いただけ。意外と早かったな」
「急いで来たもん。車はどうしたの?」
「近くの駐車場に停めた」
「なんか家にまで来てもらってごめんね。早く仕事が終わった日は、いつもスタジオにこもってるのに」
「別に。今日は何も予定なかったし」
暇さえあれば練習しまくっているセレンに予定がないわけがない。
今日だって、絶対にスタジオに入るつもりだったはずだ。
同居することになったのはセレンのせいかもしれないけど、生活リズムを変えてしまうのはさすがに申し訳ない気がする。
お詫びの言葉を口にしようとしたタイミングで、セレンはコートのポケットにスマホを入れてわたしの隣に並んだ。
そのまま、すぐそばのアパートの階段まで一緒に歩く。
ブロック塀の角を曲がった所ですれ違った女の子達が、セレンとわたしを交互に見てから最後にもう一度わたしを見て首をひねっていた。
ファッション雑誌から抜け出してきたようなセレンの隣に、こんなちんちくりんな女がいたら誰だって疑問に思うだろう。
こういう反応には慣れている。
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