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古ぼけた木造アパートの鉄骨階段に足を乗せると、隅の茶色く錆びた部分からポロポロと破片が抜け落ちた。
「ここ気を付けてね。錆びて脆くなってるから」
「放置されてんの。ここの管理どうなってんだよ」
階段を登り始めると鉄の板が揺れ、カンカン、という音がアパートの敷地内に響く。
空室だらけのアパートだから、物音に気を遣わなくてもいいのが気楽だ。
「これくらい大丈夫だよ。そういえば、この間もセレンに言われたよね」
「言ってない」
「あれ? セレンじゃなかったっけ?」
「違う」
「そうだっけ、誰だったかな」
「よく家に誰か連れてくんの?」
「ううん、ちゃんと雨風凌げるか不安になるとか言って皆あんまり遊びに来てくれないんだよね」
「それは当たってるな」
「悔しいけど言い返せないな、それ。セレンくらいだよ、家に来てくれるのは」
「ふぅん。じゃあ、おれの他には誰も来ないんだ」
「そうだけど、それがどうかしたの? 気になる?」
「なるよ。男とか連れて来てんのかなって」
後ろにいるセレンの落ち着いた低い声を聞きながら、円筒状になったドアノブに真っすぐ力を込めて鍵を入れる。
鍵の先を微妙に動かして探り探り回すとガチャリと鈍い音がした。
立て付けが悪くて重くなったドアをよいしょと引っ張って開ける。
「そんなの連れて来るわけないじゃん。そもそも彼氏なんかずーっといないし。どうぞ、狭いけど上がって」
「だろうな、聞かなくても分かるよ。いなさそう」
「ほっといてよ!」
「お邪魔しまーす」
「そのお邪魔しますの言い方、なんかむかつく」
セレンが慣れた様子で狭い玄関に入っていく。
続けて玄関に入ったわたしは、大人が一人いるのもやっとなくらいの小さなスペースに、履き古したスニーカーと綺麗に手入れのされたレザーシューズを隣同士に並べた。
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