高園いろ巴という女

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 黒ずんだフローリングを踏むと軋んだ音が鳴る。  玄関のすぐ横には小さなキッチン、その隣にはトイレとお風呂、キッチンの反対側にある引き戸を開けると5畳の畳部屋がある。  部屋の中心には、おばあちゃんの家から持って来た漆塗りのちゃぶ台。  セレンは、その真上にぶら下がった時代遅れの木枠の照明の紐を軽く引っ張った。  白く、ほの暗い灯りがともる。 「あ、電気付けてくれたんだ。コート、ハンガーにかけよっか」 「ありがとう」  セレンから受け取ったコートと自分のコートをハンガーにかけ、なげしフックに吊るす。  壁一面の大きな押入れから、厚めの四角い座布団を一つ出してセレンの前に置いた。 「みかんジュース飲む? 昨日作ったんだけど。生姜入れて温めたら美味しいよ」 「貰おうかな」 「分かった、少しだけ待ってて」    奇跡的に動いている年代物のエアコンのスイッチを入れ、キッチンに向かう。  鍋でみかんジュースをコトコト温めてマグカップに注ぎ、お盆に乗せて振り返ると、座布団の上であぐらをかくセレンと目が合った。  こちらが反応する前にサッと目を逸らされたけど、気にせずお盆を運ぶ。  ちゃぶ台にマグカップを置いて、冷たい畳の上で両膝を抱えて座った。 「セレン、寒くない? すぐに暖かくなると思うんだけど……毛布出そうか?」 「おれは寒くないから平気。いろ巴って色々作るよな。味噌とかジュースとか。漬物も漬けてたっけ?」 「お母さんが野菜とか果物を送ってくれた時だけね。いつもたくさん送ってくれるから、何か作らないとだめになっちゃうんだよ。このジュースも、ダンボール箱いっぱいにみかんを送ってくれたから作ってみたんだ」  セレンは湯気の上がるマグカップを手に取り、口元に近付けた。   「いい匂い。いただきます」 「はい、どうぞ」
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